先日,T.O. さんからご質問を頂いた.
1.古代製鉄関連で「含銅磁鉄鉱」という呼称がよく使われますが、鉱物の呼称として如何なものでしょうか。
2.日本でも、銅と磁鉄鉱が共に採掘される箇所がありますが、その場合、磁鉄鉱の中に銅が混在しているものなのでしょうか。これを製練した場合、銅を含む所詮「含銅磁鉄鉱」ということなのでしょうか。
というもの.
「含銅磁鉄鉱」という「言葉」は聞いたことがありませんでしたが,鉱物学や鉱床学を習ったのは,もう40年も前のことであるし,そういう新鉱物がその間に出てきた可能性が全くないわけでもないので(ほとんど,あり得ないですが),調べるので時間を欲しいとして保留しておきました.
授業が始まって,少し余裕ができた(というか,開き直った(^^;)ので,少し調べてみました.
とりあえず,ネット上で「含銅磁鉄鉱」を検索してみると,いくつか,その言葉が使われていますが,T.Oさんのご指摘通り,「古代製鉄関連」でしか使われていないようです(学問体系が異なったとしても,似た言葉を別な概念に使うのは,誤解を招くことが多く,どうかと思います).
ただ,地質学関係では,まったく使われていないかというと,そうともいえず,ごく稀に「含銅磁鉄鉱」が出てきます.
しかし,それは文脈を見てもらえばわかるのですが「含銅磁鉄鉱床」という使い方.正確にいえば「含銅磁鉄鉱鉱床」.それは「含銅磁鉄鉱」の鉱床ではなく,「(含銅)磁鉄鉱・鉱床」ですね.まれにそれが「含銅磁鉄鉱」と略されたのか誤植(欠植?)なのかわかりませんが,それは確かにある(困ったものです).
まあ,なんにしても「含銅磁鉄鉱」という新鉱物が発見されたという記述は見あたりませんでした.
さて,この「(含銅)磁鉄鉱床」,どこに出てくるかというと,まず最初が「釜石鉱山」です.餅鉄があったことで有名な鉱山です(標本欲しいなあ(^^;).
ここは有名なスカルン鉱床で,石炭紀-ペルム紀の石灰岩に蟹岳複合岩体と呼ばれる閃緑岩・モンゾニ岩・花崗閃緑岩が貫入してできたもの.鹿野・南部(1981)によれば「東側の古生層火砕岩と西側の閃緑扮岩々脈との間に生成したざくろ石スカルン中に,火砕岩に近接して,磁鉄鉱の濃集する鉄鉱体が胚胎している.スカルン帯の前縁,残存石灰岩との境界付近には灰鉄輝石を主とするスカルンが発達し,その中でも石灰岩にもっとも近接して塊状の黄銅鉱・キューバ鉱が濃集し,高品位銅鉱体が形成されている.スカルン鉱物と鉱石鉱物の組合せ,およびそれらの分布にみられるこのような傾向は釜石鉱山の西列鉱床群に共通している.」となっています.
まあ,このように「鉄鉱石」と「銅鉱石」がそれぞれ濃集体を作って「(含銅)磁鉄鉱・鉱床」をつくっているということなんでしょうね.
けっして「含銅磁鉄鉱(という鉱物の)鉱床」があるわけではない.
なお,ここで出てきた黄銅鉱は化学式がCuFeS2,キューバ鉱はCuFe2S3なので,“含銅鉄鉱”ではありますが,“ 含銅磁鉄鉱”ではありません(ちなみに磁鉄鉱の化学式はFe3O4).
さて,磁鉄鉱中に「銅」成分がないかというと,そういうわけにはいきません.磁鉄鉱が主体の鉱石中にも随伴鉱物として黄銅鉱,磁硫鉄鉱,黄鉄鉱が記載されていますので,見た目で選り分けても原材料に「銅成分」が混入するのは避けられないでしょう.
製錬過程でどうなるかは,その時代の技術によって異なると思われますので,私の能力では言及できません.
なお,ほかに阿哲地域(岡山県)の本郷鉱山でも“ 含銅磁鉄鉱”を採掘していたらしいです.ここも,スカルン鉱床ですね.
注:ネットサーフィン中に「キースラーガー(含銅磁鉄鉱)」という記述がありましたが,キースラーガーは「層状含銅硫化鉄鉱鉱床」ですので,お間違えの無いように.我が北海道でも「下川鉱山」が有名でした.お,この標本,もってるな.(^^)
1 件のコメント:
ご多忙にも拘わりませず、ご丁寧なご説明を有り難う御座いました。
「銅鉱石を含む磁鉄鉱の鉱床」というのが本来の意味と理解させて戴きました。
古くは俵国一「日本刀の科学的研究」の中に、精錬された日本刀の地鉄の中で「銅成分」を多く含むものがあり、国内の鉄原料とは考えられず、外国の鉄素材ではないかと疑問を呈しています。
近年では、元新日鐵の先端技術センターで鉄の研究をされ、考古学の金属遺物の分析を数多くこなされた佐々木稔氏がある見解を出しています。
即ち、製錬・精錬の結果、銅を0.1%以上含む磁鉄鉱は我が国では考えられない。
我が国でも、銅を随伴する鉱床は釜石と赤谷(新潟)にあるが、古代~中世にかけて採掘の痕跡がないことを理由に挙げています。
この類似見解は、「東京工業大学・製鉄史研究会」も同様です。
ご指摘のように、銅を随伴する磁鉄鉱は岡山の総社市近辺にあることも確認されています。
但し、製錬~精錬の結果としての地金(中世まで)の成分々析が明瞭ではありません。
多分「含銅磁鉄鉱」という呼称は佐々木氏が使用し始めたものと推測します。
この呼称は、鉄鉱石の呼称ではなく、磁鉄鉱(粉鉱を含む)の精錬結果としての地金に「0.1%を指標」としてそれより多い銅成分を含むものを「便宜上」呼称したように思われます。
佐々木氏には直接面談して根拠を確認するつもりでしたが突然鬼籍に入られて実現できませんでした。
余談ですが、備前では、古くは鉄鉱石製錬だったようです。これが事実とすれば、佐々木氏の識別からすると銅の含有率は0.1%以下だったということになります。それより、磁鉄鉱(粉鉱含む)を論じる前に、周辺は褐鉄鉱(針鉄鉱)の宝庫です。川なども赤色に染まっています。
地元の古代製鉄を研究している鬼之城製鉄研究会は砂鉄製錬のみしか念頭にないようですが、何故褐鉄鉱に気が付かないのか不思議でなりません。
この地区には磁鉄鉱の粉鉱(砂鉄)は無いと聞いています。古代でも無かったのではないでしょうか。
地金の成分による産地の識別法には多くの疑問がありますが、ご教示戴きましたお陰でかなりすっきり致しました。
御礼申しあげます。
今後も、ご迷惑かと存知ますが、色々お教え頂き度く宜敷くお願い申し上げます。
有り難う御座いました。
敬具
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