2008年11月26日水曜日

石川貞治・横山壮次郎の地質学(5)

(簡略版・札幌農学校の地質学)

北海道庁第二部地理課
 1888(明治21)年,北海道庁は「北海道新地質調査」の実施を決定.前年帝国大学を卒業した神保小虎を北海道庁技師としました.蛇足ながら,この頃には,大学は東京大学しか存在せず,帝国大学といえば,東京帝国大学のことです.神保は新しい調査チームを結成.このときに札幌農学校を卒業したばかりの石川貞治が助手となります.

 石川が道庁にいったとき,そこには山内徳三郎・桑田知明・坂市太郎・前田清明・西山正吾がいました.覚えているでしょうか? 彼らはライマン調査隊の元メンバーでした.一度は本州に渡ったライマン調査隊のメンバーの多数が,また北海道に集結していたのです.全員ではないにしても.


●北海道鉱床調査報文

 1882(明治15)年に開拓使が廃止されたとき,鉱業に関する事業はすべて工部省に移管されました.そのため北海道における地下資源開発調査は中断していたわけです.
 1886(明治19)年に北海道庁が設置されたとき,長官・岩村通俊は再び全道の地質鉱床調査事業を企画しました(この企画には正式な名称がついていなかったらしく,記事によって呼び方がバラバラです).それはライマン調査隊のリーダーだった山内徳三郎を主任とし,大島六郎・桑田知明らを助手としました.また,一方で空知煤田(炭田)の調査も計画され,こちらは大日向一輔・米倉清族・前田精明らが調査を行っていました.
 1887(明治20)年には,空知煤田調査を地質鉱物調査事業に併合し,それまで地質調査所にいた技師・西山正吾を加えます.
 ところが翌1888(明治21)年,地質鉱物調査主任だった山内は,なぜか林務に配置換え.理学士・河野鯱雄が主任になります.そして,坂市太郎・神保小虎・加藤清のほか,この年札幌農学校を卒業した石川貞治が加わります.記事によってはこの年,“神保が主任になり,山内は道庁第二部地理課長を辞職した”とされているものもあります.なにがあったのかはわかりませんが,1890(明治23)年3月の「坂-神保論争」の火種は,もしかしたらこのときに蒔かれていたのかもしれません.
 なお,坂の夕張炭田の発見は1888(明治21)年のことでした.
 これらの調査の結果は,1891(明治24)年になって「北海道鉱床調査報文」として道庁第二部地理課から出版されます.非常に妙なことですが,著者・編集者として名前がでてくるのは西山正吾のみ.西山は報文を書き上げたあと,農商務省に転出しています.

 わからないことばかりですが,以下に,いくつかのヒントになりそうなことを記録しておきます.

【目次から】
 「北海道鉱床調査報文」には,まずは「地形」の概説から始まり,気候や人口,物産のほか道路や鉄道,水路灯台にまで言及します.これはまだ北海道に関する情報の少なかった時代なので,やむを得ないところがあるでしょう.
 オヤッと思うのが次の章の「地質と鉱床との関係」です.
 西山はライマンの地質系統ではなく,神保小虎が1889(明治22)年に出した「北海道地質略論」に掲げた地質系統を採用しているのです.これが多分,西山以外の著者名が消えている原因でしょう.特に,坂などは我慢がならなかったと思われます.西山一人が泥をかぶって,脱稿し道庁を去ったのだとすれば,辻褄が合います.
 並行して,神保単著の北海道地質論がまとめられており,これは「北海道地質略論」(1889),「北海道地質報文」(1891)として出版されています.一方で神保を主任とする調査グループの「鉱物調査報文」(1894, 1896)がまとめられていますが,著者は石川貞治・横山壮次郎になっており,これには神保は編著者には入っていません.

 話を戻します.
 次の「鉱床」の章には,「石炭・「硫黄」・「石油」・「砂鉄」・「砂金」・「金属鉱山」のほか「褐炭」・「泥炭」・「石灰石」・「珪藻土」・「建築石」・「満俺黒鉛,石膏等」・「鉱泉」が詳述されています.石川・横山の報告書,神保の報告書の三者を比べれば,何かわかるような気がしますが,ちょっと読みこなす余裕がありません.またの機会に.

【付図から】

 北大北方資料データーベースには,この「北海道鉱床調査報文」の付図とされるものが残されています.この中のいくつかには「坂市太郎」・「桑田知明」・「西山正吾」の署名があります.公開されている図には,このほかにも署名があるようですが,画像の解像度が低くて残念ながら読めません.以下,付図の名前だけでも記しておきます.

 1. 亜細亜東部之図
 2. 北海道地質及鉱産図
 3. 石狩煤田全図
 4. 空知煤田地質測量図
 5. 夕張煤田シホルカベツ鉱区地質測量図 / 坂市太郎
 6. 夕張煤田久留喜鉱区地質略図 / 坂市太郎
 7. 留萌煤田略測図
 8. 宗谷煤田地質略図
 9. 古潭石油地地質略図
 10. 利別砂金地質略図
 11. 凾館四近灰石砂鉄地略図
 12. 恵山四近鉱産地地質略図
 13. 石狩国厚田郡古潭石油地地質略図 / 桑田知明
 14. 後志国瀬棚郡利別砂金地地質略図 / 西山正吾

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