現在入手可能な林蔵についての資料は,洞富雄(1950)「間宮林蔵」(人物叢書新装版;吉川弘文館)のみ.
この本は,「新装版」化のほか,「重刷付記」,「第二刷付記」,「第三刷付記」などが付け加えられていますが,改訂履歴がよくわからないので注意が必要.また,第一版は昭和二十五年発行になっているが,クレジットは"Tomio Hora 1960"になっています.
本文は多分初版のままだと思われますが,上記「付記」は付記というよりはまったくの「訂正」があるようなので本文を読んだだけでは,非常にマズイことになりかねない.全面書き換えが必要な本だと思われますが,著者は明治三十九年生まれなので,不可能でしょう.しかし,書店ではこの本しか入手できないというのが,日本の現状.
この不明な改訂がおこなわれている間に,間宮林蔵述・村上貞助編「東韃地方紀行他(洞富雄・谷澤尚一,1988編注)」(平凡社東洋文庫484)が出版されています.
ここに至って初めて,それまで林蔵の著作だとされていた「北夷分界余話」・「東韃地方紀行」・「窮髪紀譚」は別人の著作であることが明らかになりました.つまり,林蔵には著作が存在しないことになります.歴史はまだまだわからないことの方が多いのでしょう.また,それまでは,「東韃地方紀行」は独立した著作だと考えられていたのですが,「北夷分界余話」つまり樺太編を前編とした後編であり,二つで一つの著作だということです.
なお,この東洋文庫版は品切れになってから久しく,古書店でしか入手できません.平凡社ではオンデマンド版で東洋文庫の復活を目指しているようですが,値段が高めで注文しても入手まで一月ほどかかるようです.これが日本の現状.(^^;
ほかに,大谷恒彦(1981現代語訳)「東韃紀行」(教育社新書,原本現代語訳104)は,比較的キレイな状態のものが,古書店では入手可能.
大谷さんの著作には,ほかに(1982)「間宮林蔵の再発見」(ふるさと文庫,筑波書林)もあり,こちらは現在でも市販されていて入手可能です.内容は林蔵の地元で掘り起こしたエピソード集なので,歴史好きには面白いですが,間宮林蔵の全体像がわかるわけではありません.
あと,間宮林蔵をあつかった歴史小説はたくさんあります.
あまりお勧めはありません.理由の多くは,表向きは偉大な探検の記録といいながら,背後にちっぽけなナショナリズムを感じるからです.ま,林蔵が注目されること自体がそういうことなんですが...(^^;
あと,最近の歴史小説は上記したような資料にある年表をそのままなぞって「作品」だというようなお気楽な作家が多いのはなぜでしょうかね.あ.これは,とくに林蔵についてということではなく,最近の歴史小説一般についてのことです.
ということで,やはり吉村昭の「間宮林蔵」が定番でしょうか.文庫版で買えますしね.
0 件のコメント:
コメントを投稿