2010年3月25日木曜日

Spinosuchus の展開

 
 学名辞典(恐龍編)いじり(その8)です.

 Spinosuchus という恐龍がいました.
 「いました」というのは,「過去に住んでいた」という意味ではなくて(それもありますが,(^^;),一時期,恐龍類と考えられていたのですが,現在は「爬虫類のなかの別のグループ」とされているという意味です.
 恐龍を含む爬虫類やその周辺を含めて,分類体系は,現在,グチャグチャになっていますので,詳しい説明は私にはできません.申し訳ない.自称恐龍博士たちがいっぱいいるのに,体系立てて説明できる人がいないというのは,自称恐龍博士はやはり自称だけなのですかね~~((^^;).
 日本にも,「恐龍」を記載した人は,何人も出ているのですけれどね~.


 話を戻しましょう.
 Spinosuchus は恐龍ではないので,これ以上説明しません.といえば,終わりですが,私は「恐龍博士」ではないので,もう少し追求することにします((^^;).

Spinosuchus Huene, 1932
Spinosuchus caseanus Huene, 1932
 
 Spinosuchus の標本は1921年にE. C. Caseが発見したとされています.
 E. C. Case (1871-1953)はUSA*の古生物学者.標本は,頸椎から仙椎までの一連の脊椎で22個あったとされています.発見はテキサスのクロスビー郡に分布する上部三畳系のドッカム累層[Dockum Fm.]から.CaseはこれをCoelophysisの椎体と考え,1922年にCoelophysis sp.として記載したそうです(「そうです」というのは,原著が入手できないので,確認ができないからです).

 ところが,von Huene**が,この一連の脊椎にCoelophysisとは思えない特徴を見いだします.それは,異様に膨らんだ神経棘.神経棘のことを[neural spine]といいますので,von Hueneのつけた属名がSpinosuchus = Spino-suchus***=「棘の」+「ワニ」.
 そして,最初に記載したCaseに敬意を表して,種名をcaseanusと名付けます.

 [-anus]は《場所》《時》《人名》《国民》《固有名詞》の形容詞化語尾.単数男性ですから[-i]をつけて,caseiでもいいはずです.というよりは,それが普通のはずと思いますが,こうなっています.もちろん,ICZNでは[-anus]の使用は許されていますが,[-ii], [-i]のほうが望ましいと明記されてます(ICZN D-16).
 こういうルール(文法?)について,ラテン語かギリシャ語の専門家がわかりやすい本を書いてくれないかなぁ,と,思いますが,それができる人がいるのか,それ自体が疑問.なにせ,日本にはまともな「羅和辞書」,「希和辞書」もないのが現状.残念.

 さて,属の語尾[-suchus]についてですが,なぜ,suchus=「ワニ」としたのかは判りません.
 脊椎しか産出していないので,脊椎の特徴が何かしら,-saurusとつけるのをためらわしたと想像することもできます.もちろん,この時点ではSpinosaurus Stromer, 1915がすでに提唱されていますので,-saurusの使用はできませんでしたけどね.でも,-saurosでも,-sauravusでも,-sauroidesでもよかったわけで,やはり,-suchusを選んだのは,それなりの理由があるんだと思います.
 
 これかそれか,のちに,Spinosuchusは恐龍類ではないと判断されてしまいます.そうなると,Spinosuchusについて語る人は,ほとんどいなくなってしまいます.だから,これ以上の情報はありません.
 詳しいことは,いくつかの原著論文に当たってみるのがはやいのですが,私の環境では,それはほとんど不可能なので,あきらめてください.
 べつに,検閲やら隠匿やらをしなくても,流通困難な情報というものはあるんです.
 私は,図書館やら,学会やら,それを統括する政府組織やらのサボタージュだと思ってますけどね.なぜなら,現状「著作権」という言葉は,原著者のためにあるのではなくて,流通させる企業のためにある言葉ですからね(このことは,別の機会に…).


* USA:常識的には「アメリカ合衆国」と書くべきでしょうけど,これ明らかに誤訳なので,使いたくない.the United States of Americaですから,「アメリカ合国」が正しい.

** von Huene:von Hueneについては「Halticosaurus の展開」を参照のこと.

*** suchus:suchus については「Dolichosuchus の展開」を参照のこと.
 

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