2010年1月26日火曜日

Procompsognathus の展開

 
 学名辞典(恐竜編)いじり(その2)です.

Procompsognathus Fraas, 1913

 属名 Procompsognathus は pro-Compsognathus=「先行する」+「コムプソグナトゥス(属)」と分解できます.Compsognathus のことは,ひとまず置いておきます.
 
 記載者の Fraas は,Eberhard Fraas (1862-1915)のこと.ドイツの地質学者・古生物学者です.

 Procompsognathus に属するとされる種は模式種のProcompsognathus triassicus Fraas, 1913一種のみ.
 triassicusはラテン語の「3の数」をあらわす[trias, triadis]を英語化したTriassic=「三畳(紀,系)の」を,さらにラテン語化して triassic-us《ラテン語形容詞化》もしくは,triass-icus《形容詞化》としたもの.どちらにしても「三畳系(紀)からの」という意味になります.

 なお,厳密にいうと,Triassicは《形容詞》なので,言葉に意味を持たせるためには,Triassic system=「三畳系」(地層そのもの),もしくはTriassic period =「三畳紀」(三畳系が堆積した時代)としてセットで使う必要があります.なので,和訳とはちょっとした“ねじれ”があり,一対一で対応しているわけではありません.しかし,英語の方は熟語として扱えば問題ありませんね.
 問題は,英語という言語の癖なのか《形容詞》をそのまま《名詞》として使っていることがあることにあります.この場合,the Triassicが「時代」を表しているのか,「地層」を表しているのかは,文章の前後関係によるしかなく,これは曖昧です.単語だけでは訳せない場合が出てきます.


 話が前後しますが,この学名辞典(恐竜編)の恐龍データの元本は,Steel (1969, 70)で,この分類に従っています.もちろん,新しい分類も提案されており,その文献類も所有しているのですが,そちらは膨大すぎて,ちょっと手に負えないところがあるので,古い文献の方を使っています.

 Steel (1970)では,Pterospondylus Jaekel, 1913がProcompsognathus Fraas, 1913 の同物異名[junior synonym]として挙げられています.

Pterospondylus Jaekel, 1913
 
 属名 Pterospondylus は ptero-spondyl-us=「翼状の」+「脊椎の」+「属するもの」と分解できます.「翼状の脊椎骨」ってどんなんだろうと考えてしまいますが,じつは,標本は一個の胸椎のみ.Steel (1970)はProcompsognathusの同物異名と考えていますが,最近では「一個の脊椎」などという標本は研究対象としては扱われず,nomen dubium(=疑わしい学名)として扱われています.

 Jaekel は Otto M. J. Jaekel (1863.2.21 - 1929.3.6)のこと.彼は,ドイツの古生物学者で地質学者.独・グライフスヴァルト大学教授を勤め,1912年にドイツ古生物学会を創立しています.

 記載当時の模式種は Pterospondylus trielbae Jaekel, 1913.
 種名のtrielbaeは地名が元になっているようなのですが,いまのところ不詳です.


 話を戻して,Procompsognathus の元になっている Compsognathus のこと

Compsognathus Wagner, 1861

 ここで,Compsognathus Compsognathus Wagner, 1861のこと.
 属名 Compsognathus はcompso-gnath-us=「繊細な」+「顎の」+「に属するもの」という意味.-gnath-us の《接尾辞》-usの解釈は,辞典類にもまともな説明が見つからず,まだ納得いかないのですが,仮にこうしてあります(-saur-us参照).

 記載者の Wagner は,J. A. Wagner (Johann Andreas Wagner: 1797.3.21 - 1861.11.17)で,独国の動物学者,古脊椎動物学者のこと.

 Compsognathus Wagner, 1861には,以下の一種が属することになっています.
 もちろんこれは,模式種ですね.

Compsognathus longipes Wagner, 1861

 longipes は「ロンギ・ペース[longi-pes]」 に分解でき,=「長い」+「足(柄)」という意味.
 属名と合わせて,「長い足のCompsognathus(=繊細な顎)」.
 学名から,どんな恐龍なのかイメージできましたか?

 

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