北大図書の「蝦夷草紙」
北大図書の北方資料データベースには,たくさんの“蝦夷草紙”が収蔵されています.その中で,画像が公開されているのは5点のみ.だから公開されているものについてのみの話しということになります.
一点目は「蝦夷國風俗人情之沙汰 巻の壱」とされているもの.
内容は相当いい加減.たぶん,「勝安房」の蔵書印があるからという理由でのみ資料価値があるのではないかと思われます.「産物」に関する項目はなし.勝安房が勝海舟のことだとすると,彼が蝦夷地の産物に興味を持たなかったのは奇妙.いい加減な写本をつかまされたのかも知れませんね.
二点目は「蝦夷草紙 全」とされているもの.
この写本を,現代語訳或いは活字翻刻に使ったものはないようです.
「物産」の節で,地質鉱物に関係する項目は「金山」・「銀山」・「銅山」・「鐵山」・「鉛山」・「黄山(!)」・「碗青」・「硯石」・「鍾乳石」・「石炭」・「明礬」・「温泉」の12項目.ただし,他の写本では「黄銅」になっている項目が「黄山」になっており,「碗青」以下は項目名が記されていない.写本した人はたぶん,本草学の知識に欠ける人だったんでしょう.
三点目は「蝦夷草紙 上」と「蝦夷草紙 下」のセット.
これは,「北門叢書」と吉田常吉編「蝦夷草紙」で活字翻刻に使われたとでています.
「物産の事」の節は下巻にあり,地質鉱物に関係する項目は「金山」・「銀山」・「銅山」・「鐵山」・「鉛山」・「黄銅」・「餘糧」・「碗青」・「硯石」・「鍾乳石」・「石炭」・「明礬」・「温泉」の13項目.
四点目は「蝦夷草紙 上巻」と「蝦夷草紙 下巻」のセット.
これは,DB上ではとくに解説がありませんが,「物産」の節は欠けています.その他の部分を検討する余裕がないのでなんですが,「勝安房」写本よりは程度がいいものの,写本としてはいい加減なものと思われます.
五点目は「蝦夷國風俗人情之沙汰 上」,「蝦夷國風俗人情之沙汰 中」と「蝦夷國風俗人情之沙汰 下」のセット.
DBの解説では,「活字翻刻本:近世庶民生活史料集成4」とされていますが,これは多分「日本庶民生活史料集成 第四巻」のことでしょう.
これは,東大図書・南葵文庫に蔵書の「蝦夷國風俗人情之沙汰 三冊」の編集本と考えられているようです.こちらは徳内の談話に本多利明の編集・加筆が加わって成立したものらしく,北大図書のものはさらにそれを整理したものと考えられているようです.
「物産の事」の節は中巻にあり,地質鉱物に関係する項目は「金山」・「銀山」・「銅山」・「鐵山」・「鉛山」・「黄銅」・「餘糧」・「碗青」・「硯石」・「鍾乳石」・「石炭」・「明礬」・「緑礬」・「温泉」の14項目.
古い本は印刷物ではなくて,写本で伝えられてゆくことがリアルにわかります.同時に研究には,いい資料をみつけることが非常に重要だということもわかります.古書店で数10万円単位の「蝦夷草紙」写本が時々売られてますが,中身をよく検討しないとダメですね.
たくさん集めて,加除の順や筆跡を解析すると系統発生の様子がわかる面白い資料ができそうですが,経済的にいって個人では不可能でしょう.(^^;
2 件のコメント:
昔の本が写本によって広がっていったというのは何となく頷けますが、「系統発生」という視点がおもしろいですね。本のDNAとかもあったりして
文系の業績を理系の視点で見直すという発想なもので.でもこの系統発生は,突然変異の方がメインのようですよねえ.
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