ラテン語は,造語の多い「科学用語」で頻繁に使用されます.
ラテン語は使用する民族がいなくなったので,固定してしまい,ある意味,使用するのが非常に楽になんですね.現用する民族がいると言語は変化します.たとえば,よくいわれる「最近の日本語は乱れている」.そうなると,わけがわからなくなるんですね.マスコミ用語やJK用語がいい例です.お役所発カタカナ語とか.
ラテン語は使用する民族がいなくなったので,妙な変化・俗化,意味のない省略に走ることがない.
これが一番の理由だと思いますが,ほかにも,語源は「ギリシャ語」がほとんどで,国際化の進んだ現代の言語のように「もとは何語だかよくわからない」状況が少ないことなんかも,理由だと思いますね.
データを集めていて,一番の「科学用語」として用いられる理由は,「ラテン語はすごく論理的だ」からだと感じます.
ただし,わたしはラテン語は習ったことがないので,文法など知りません.読むこともできませんし,会話などサラサラ.あくまで「科学用語」(基本的には「学名」)の体系を理解したいだけです(そして,そんな本は存在しない(--;).
たとえば,ラテン語に[Seres]という言葉があります.
発音も含めた表記では,[Sēres, Sērēs]となるらしい.もとは,ギリシャ語で[Σῆρες](セーレス)と表記し,意味は「東~中央アジアの人びと」です.たぶん,ラテン語辞典(羅英でも,羅和でも)を引くと「中国人」などと書いてあるかと思いますが,これはウソ.なぜなら,ギリシャ語やラテン語が成立したころに「中国」という国はなかったからです.
ではなぜ,「東~中央アジアの人びと」をさす言葉が必要だったか.それは,(たぶんです.わたしの想像(^^;)「シルクロード」が関係していると思います.そこで,[Seres]も,[Σῆρες]も「絹がやって来る土地」という意味を持っています.
ここからがすごいところです.
[Seres]は形容詞化して[sericus]となります.[sericus]は[ser-icus]という合成語です.
[-icus]という接尾辞は,辞書では「《類似.適応》を示し,正酸(の形容詞名).ハロゲン化水素酸(の形容詞名)」云々などと書いてありますが,実際に例を調べてゆくと,「地名などについて《形容詞化》」させている場合が,ほとんどです.
つまり,[Seres]は形容詞化して,[sericus]になり,「東~中央アジアの人びとの」の意味ですが,「絹の産地の」という意味も持ちます.これが,「絹の」の意味に変化するのは不思議はありませんね.
形容詞[sericus]は,本来[ser-icus]という構造ですが,[seric-us]という構造に変化します.(日本語の使用者には理解しがたいことですが)形容詞にも《男性》《女性》《中性》で語尾変化があり,順に,以下のようになるからです.
sericus, serica, sericum (sēricus, sērica, sēricum)
つまり[seric-]という語根が誕生します.
さて,この[seric-]から,さまざまな形容詞ができあがります.
接尾辞[-atus]は,「~になった(~した.された.~をもった.~状の.~化の)」という意味を持ちますが,これと組み合わさって…,《形容詞》seric-atus=「絹毛をもった.絹毛状の」になります.
sericatus, sericata, sericatum (sēricatus, sēricata, sēricatum)
もう一つ,接尾辞[-eus]は,主として「~製の(原料)」を示しますが,これと組み合わさって…,《形容詞》seric-eus=「絹製の.絹状の.絹糸様光沢のある」になります.
sericeus, sericea, sericeum (sēriceus, sēricea, sēriceum)
さらに,接尾辞[-fer]は,「~(を)持つ」という意味を持ちますが,これと組み合わさって…,《形容詞》serici-fer =「絹毛を有する」という意味になります.
sericifer, sericifera, sericiferum (sēricifer, sēricifera, sēriciferum)
形容詞が,いくつかできましたが,これらはすべて,実際に動物や植物の「種名」として使われています.調べてみてください.
ついでに,蛇足しておくと,[sericites]は[seric-ites]という構造をもち,[seric-]=「絹の」と[-ites]=「石」との合成語ですが,英語としては[sericite]=「絹雲母」になっています.
ひどく理論整然としていて興味深いのですが,こういうルールからとんでもなく外れた例もないわけではありません.なぜそうなるのかを調べると,これはまたおもしろいのではないかという気がしますが,わたしは言語学者ではないので,そちらには踏み込まないようにしています.
2 件のコメント:
セリン(sericus silken)というアミノ酸の語源を調べていたらここにたどり着きました。
非常に参考になりました。ありがとうございます。
お目にとまりまして光栄です.
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