2011年5月10日火曜日

魚の分類(2)Müller (1844)

 
 まずは,Bergという人から.
 Leo S. Berg (Lev Semenovich Berg); 1876-1950
 と,いう記述があります.日本語での表記の仕方は不明です.もとがロシア人ですので,ロシア語を英語に発音転写したものでしょうから,とりあえず,「レオ=セメノヴィッチ=ベルグ」としておきます.わたしはロシア語も英語もできませんもので.

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 ベルグは,最初に注目すべき「科学的な」現世の魚類分類はMüller (1844)の試みであるといっています.
Müller, J., 1844, Über den Bau und die Grenzen der Ganoiden und über das natürliche System der Fische. Abhandl. Akedemie Wiss. Berlin, phys.-math. Kl., 1844, pp. 201-204.

 つまり,Müller (1844)以前の分類学的試みは科学的でない,もしくは科学的な議論の対象にならない,と,いってるわけです.

 Müller (1844)以前の現世魚類分類についての試みが,どんなものであったかは,知ることもできませんが,こういういい方には注意が必要です.“過去の研究は非科学的で,錬金術にもひとしい”といういい方がごく最近もされています.それは,(プレートテクトニクス論を展開した)地球科学者が(地向斜造山論を展開した)地質学者に対して貼ったレッテルです.
 まあ,現在,ほとんどの地質学者はその看板を下ろして,自らを地球科学者と名のってますから,そのレッテルにクレームを付ける人なんて,まず,いないんですけど(地質学者より一ランク下がるとされる「地質屋」は,まだその看板を下ろしていないようです).「古い神,土俗の神は悪魔である」というやり方は,キリスト教世界を眺めてみると腐るほど例があります.

 科学的か非科学的かは,(科学的には(^^;)裏表の関係にあるのではなくて,相対的にどうかという程度のものです.どちらがよりリーズナブルに自然を説明しているか,違いはその程度のものです(たいした理由もなく,あっちは古いから非科学的=オカルトと断定するのは,科学ではなく宗教の世界でしょう).もちろん,「科学は知識の体系」ですから,教祖さまが黒といえば黒になるようなものは,体系として成立していないので,科学ではありません.

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 さて,Berg (1940)に示されたMüller (1844)の分類を引用してみましょう.

class PISCES


subclass I. DIPNOI Müller, 1844
 order SIRENOIDEI Müller, 1844
subclass II. TELEOSTEI Müller, 1844
 order ACANTHOPTERI Müller, 1844
 order ANACANTHINI Müller, 1844
 order PHARYNGOGNATHI Müller, 1844
 order PHYSOSTOMI Müller, 1844
 order PLECTOGNATHI Cuvier,
 order LOPHOBRANCHII Cuvier,
subclass III. GANOIDEI Müller, 1844
 order HOLOSTEI (author unknown)
 order CHONDROSTEI Müller, 1844
subclass IV, ELASMOBRANCHII Bonaparte, 1838 s. SELACHII Müller, 1844
 order PLAGIOSTOMI (author unknown)
 order HOLOCEPHALI Müller, 1844
subclass V. MARSIPOBRANCHII (author unknown) s. CYCLOSTOMI (author unknown)
 order HYPEROARTII Müller, 1844
 order HYPEROTRETI Müller, 1844
subclass VI. LEPTOCARDII Müller, 1844
 order AMPHIOXINI Müller, 1844

 まず,class PISCESですが,構成要素をみればわかるとおり,class PISCES Linnaeus, 1758とはまったくちがうものですから,たぶんclass PISCES Linnaeus, 1758: Müller, 1844となるべきものなのでしょう(だったら,そう明示してほしい).もっとも,いわゆる“魚類”がすべて含まれているのなら,わけ方が変わっただけで「ぜんぶ含まれているのでLinnaeus (1758)の定義と同じ」という考え方も成り立つかとは思いますが,なんにしても,定義が明示されていないのだから,どうにもならないです.

 subclass (亜綱)はすべて,Müller (1844)が立てたものと書いてあります.order (目)以下については,定義者名が示されていなかったので,ここに表示した定義者名はわたしがいくつかの方法によって調べて付加したものです.Cuvier の分類を踏襲しているものがありますが,いつのものかは不明.


 なぜ,魚類分類では,定義者名を示さないという習慣が続いているのでしょうね?
 たぶん,博物学の時代のあまりに古いところから分類作業が始まり,あまりにたくさんの分類法が提示されてきた結果,事実上,文献を示すことができないなどということがあるのかもしれません.

 四番目と五番目の亜綱は二つの名称が併記されていますが,「s.」の略号の意味は不明です.

 さて,上記分類名には“和訳”がないですが,それについては,別項で….

 

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